鈴木由里さんと「悲しきジプシー」 
|
鈴木由里さんと「悲しきジプシー」
|
|
3月7日(金)の夜，仕事の帰りにラジオを聴いていたら，「MUSIC 24/7」という番組のゲストで小島一慶さんが出ていた。その中で，「パックインミュージック」という番組の中で１年に一度，骨肉腫でこの世を去った，当時１７歳の鈴木由里（ゆり）さんの手記「ともしび」の朗読を流していたことを話されていました。その後，この女性が生前好きだったシェールの「悲しきジプシー」が流れました。この女性の人生と「悲しきジプシー」の曲調がシンクロしてしまい，家に帰っても妙に気になってしまいました。 飯野大朗さんの「kogamoon」というＨＰには，鈴木由里さんのことを次のように紹介しています。（少しだけ，追記してあります。） 昭和４７年８月２９日に骨肉腫でこの世を去った，当時１７歳の鈴木由里（ゆり）さんが，その半年前から「ともしび」と名付けて書き始め，度重なる手術，苦痛と，死への恐怖におびえながらも，友人たちや周りの人たちの温かい励ましに，最後まで「がんばらなくちゃ」と病に立ち向かっていった，いのちの手記です。 由里さんは２月２５日から手記を書き始めました。このときすでに片足の切断手術を受けたあとのようです。そして骨肉腫のガン細胞が目に転移したのか，２７日か２８日頃に片目の摘出手術も受けています。さらに６月３日にもう片足の手術。 しかし，もうこれ以上外科的療法では無理ということなのか，７月１日に東京の病院へ移っています。そこで放射線療法を受けるのですが・・・ ７月２５日意識不明になったと書いています。危篤状態に陥って家族や友人知人が呼ばれ，意識が戻ってその人たちの顔が見えたときの不安な気持ちが， 「どうしたっていうのよ。 ・・・」に表れています。 由里さんが亡くなる１か月前，良くなるどころか次第に重くなっていく自分の病気に，もう助からないことを感じとったようです。しかし，そんな中でも周囲の人を気遣う，彼女の優しさが切ないほど伝わってきます。そして父母，妹，友人知人に宛てて，遺書のようなものを手記に書き残しています。 ８月１４日，つらい日々のようすが， 「暑い。口がかわく。ご飯がおいしくない。ああ，何もかもいや。」 に凝縮されています。こう書かれているのはこの日だけで，いつもはこんな泣き言は言わないようにしていたのではないかと思うと，胸に迫ってくるものがあります。 １７日には，からだがけいれん状態になり，手記を書くのもままならないところまで病状が進んでいます。 ２０日，「きょうも日の出が見られた。」 これは，眠ってしまったらもう目が覚めないのではないか？ そんな気持ちが代弁されているように感じます。 この日の手記に添えられた詩「夏を閉じる日」 自らを送る詩なのでしょうか。 夏を閉じる日 鈴木由里 夏を閉じる日 散っていく花びらに 少しの言葉がほしい 空回りしている詩に 確かな鼓動がほしい 夏を閉じる日 ブランコの揺れる あの日に戻りたい 開かれた白いページに 瞳を埋めていたい 夏を閉じる日 心を閉じて 一人でいたい 「がんばらなくちゃ。」 ２１日，最後の手記，そして，最後の行の言葉です。 手記を一冊書き終え，役目を果たしたかのように昭和４７年８月２９日，由里さんは永遠の眠りにつきました。この最後の行にすべてを込めて。 「幸せになりたい」「平凡な奥さんになりたい」「九十九里が見たい」「いつか笑ってこの手記が読み返せたら」 願いのどれもがかなわなかった由里さんは，病気さえなければ今ごろはたぶん，夢に見ていたような平凡なおばさんでいられたはずです。 「がんばらなくちゃ。」と最後の言葉が書かれた最後の手記が８月２１日，そして１枚の余白があって…。最後の１枚だけを残し，結局，お母さんに買ってもらった２冊目のノートは使うことなく，８月２９日に亡くなられたそうです。たぶん最後の言葉「がんばらなくちゃ。」を書くだけでも，命を削った魂の叫びだったと思います。そして，その言葉が「がんばらなくちゃ。」 凄い方だったと思います。 鈴木由里さんが好きだった，「悲しきジプシー」について少し…。シェールの「悲しきジプシー」は，シェールの人気を決定付けた曲です。ジプシーの様子を物語風に歌い上げたわけですが，エキゾチックな彼女の風貌にマッチして1971年（昭和46年）に全米No.1となりました。 シェールは，チェロキー族の血を引いていたといわれた女優の母を持ち，17歳でソロ・デビューします。彼女の大きな転機は，10歳以上も年上のソニー・ボノとの出会いでした。18歳で結婚した彼女は，夫婦デュオとして，1965年に「I Got Your Babe」などの全米No.1ヒットを生み出すなど順調に滑り出します。 それと平行して彼女はソロ活動も翌年から再開，着実に実績を重ねて行くことに…。そして，「悲しきジプシー」が大ヒット。ただ，それとともにだんだんソニーの存在感がなくなり，彼らは1975年に離婚することになってしまいます。 上の鈴木由里さんの紹介が載っている，飯野大朗さんのＨＰ「kogamoon」には，昭和５１年８月２４日午前２時から３時にかけて，ＴＢＳラジオの深夜放送'パックインミュージック'で小島一慶さんが朗読されたものから書き起こした「ともしび」の全文が載っています。下のアドレスをクリックすると，そのページにリンクしています。興味のある方は，ぜひ行ってみて下さい。 また，cavtotさんのblog「トラ刈りオヤジのノラないハナシ」の「鈴木由里さんの手記「ともしび」」のページには，上記と同じ昭和５１年８月２４日の'パックインミュージック'の「ともしび」関係の内容を，小島一慶さんのコメントも含めた全放送内容を書き起こして掲載しています。下のアドレスをクリックすると，そのページにリンクしています。興味のある方は，こちらも，ぜひ行ってみて下さい。
２０１４．３．１０
|
あなたは
|
トップへ
「音楽の玉手箱」目次へ